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広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)25号 判決 1969年4月15日

広島県芦品郡駅家町大字万能倉三七三番地

原告

裕豊紡績株式会社

(旧商号 福山紡績株式会社)

右代表者代表取締役

吉田一男

右訴訟代理人弁護士

和田誠一

松原正大

右訴訟復代理人弁護士

露木脩二

高木茂太市

広島県府中市鵜飼町五五五番地の四〇

被告

府中税務署長

渡辺岩雄

右指定代理人

山田二郎

堀田泰宏

三宅正行

岸田雄三

右指定代理人

常本一三

広光喜久蔵

右当事者間の法人税更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し昭和三八年九月三〇日付でなした原告の自昭和三五年一〇月二六日至昭和三六年四月二五日事業年度の法人税額等についての更正処分のうち申告所得金額に加算された更正の理由(別紙(一))加算金額欄第六項の金九、二五六、四九四円の部分を取り消す。

被告が原告に対し昭和三九年一月三〇日付でなした原告の自昭和三六年四月二六日至昭和三六年一〇月二五日事業年度の法人税額等についての更正処分のうち、申告所得金額に加算された更正の理由(別紙(二))加算金額欄第五項の金一九、七四三、五〇六円の部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者双方の求める判決)

第一、原告

主文同旨

第二、被告

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の原因)

一、原告(旧商号 福山紡績株式会社、昭和四二年四月二六日現商号に変更)は、繊維製品の製造、加工、販売を業とする会社である。

二、被告は、原告の自昭和三五年一〇月二六日至昭和三六年四月二五日事業年度の法人税確定申告について、昭和三八年九月三〇日付で更正処分(以下、第一次更正処分という)をなし、その頃原告に通知したが、右更正処分の更正理由(別紙(一))の加算金額欄第六項において、原告が昭和三六年四月二五日訴外広島県芦品郡駅家町(以下、訴外町という)に対して損金支出した寄付金二、〇〇〇万円のうち、九、二五六、四九四円は原告の取得した土地の取得価額にあたるとして、右金額の損金算入を否認し、これを申告所得金額に加算した。

三、次に、被告は、原告の自昭和三六年四月二六日至同年一〇月二五日事業年度の法人税確定申告について、昭和三九年一月三〇日付で更正処分(以下、第二次更正処分という)をなし、その頃原告に通知したが、右更正処分の更正理由(別紙(二))の加算金額欄第五項において、原告が昭和三六年七月一三日訴外町に対して損金支出した寄付金二、〇〇〇万円のうち、一九、七四三、五〇六円は原告の取得した土地の取得価額にあたるとして、右金額の損金算入を否認し、これを申告所得金額に加算した。

四、そこで、原告は、第一次更正処分については昭和三八年一〇月二九日付で、第二次更正処分については昭和三九年二月二二日付で、広島国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和三九年六月二〇日付をもつて右各審査請求を棄却し、その旨原告に通知した。

五、しかしながら、原告が前記両事業年度において、地方公共団体たる訴外町に対してなした寄付金各二、〇〇〇万円宛合計四、〇〇〇万円(以下、本件四、〇〇〇万円という)は、いずれも昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(以下旧法人税法という)第九条第三項但書、同法施行規則第八条の規定により指定寄付金として全額損金に算入されるべきものであるのに、被告が右損金算入を一部否認した右各更正処分は、その範囲において違法というべきものであるから右各部分の取消しを求める。

(被告の認否および主張)

第一、認否

請求原因一項ないし四項の事実は認める、同五項の事実は否認する。

第二、被告の主張

原告が訴外町に対して支出した本件四、〇〇〇万円は次の理由により寄付金に該当しないものである。

(一)  原告は、昭和三一年五月頃訴外町からの工場誘致の要望に応じて同町に紡績工場を建設することとしたが、これに伴う用地(農地約二〇町歩)の取得その他については訴外町から便宜の供与を受けることとし、右両者間において、右用地の買収価額反当り五〇万円(右用地の買収については訴外町が各地主との交渉にあたつたが、その結果買収価額は反当り五〇万円とすることに決した)につき、その内金三〇万円を原告の負担、残額二〇万円(二〇町歩分総額四、〇〇〇万円)を訴外町の負担とする(原告は、反当り土地代名下に一〇万円、離作料名下に一五万円、感謝料名下に五万円合計三〇万円を支払い、訴外町は協力感謝料名下に二〇万円を支払う)旨の合意が成立し、昭和三一年五月八日原告と各地主間に関係土地についての売買契約が締結され、その頃右売買代金反当り五〇万円が原告、訴外町間の右合意による支払方法に応じて支払われた。

(二)  ところで、訴外町の前記負担額合計四、〇〇〇万円は訴外町が原告から(1)年利八分、(2)元利金の返済は昭和三五年度以降原告が訴外町に対して納入する各種税金額から地方交付税減額分を差引いた額の範囲内において逐次返済する、との約定により借り受けた四、五〇〇万円を財源として地主に支払われたものである。

(三)  訴外町は原告の工場建設が繊維工業設備臨時措置法の施行等の事情により当初の計画どおりの規模に達する見込みがなくなり(当初計画の約三分の一程度の建設に止つた)、原告から当初予定していたほどの税収入が得られず、その結果前記借入金の返済も困難になり、利子の累積は町財政を圧迫したので、原告に対し、当初計画どおりの設備の即時実施か、若しこれが困難であればこれに代る何らかの措置を講ずるよう迫つたところ、原告は右要求に応じ、昭和三六年四月二〇日訴外町との間に、(1)原告は訴外町に対し昭和三六年四月二五日二、〇〇〇万円、同年七月一三日二、〇〇〇万円をそれぞれ「寄付」する、(2)右「寄付金」は原告の訴外町に対する前記貸付金の元本の内金二、九〇〇万円および同未収利息一、一〇〇万円に充当する旨合意し、これにもとづき、原告は昭和三六年四月二五日訴外町に対し二、〇〇〇万円の寄付をしたとして同額を損金に計上するとともに、これと貸付金元本九、二五六、四九四円、未収利息一〇、七四三、五〇六円とを相殺し、次いで昭和三六年七月一三日二、〇〇〇万円を寄付したとして同額を損金に計上するとともに、これと貸付金元本一九、七四三、五〇六円、未収利息二五六、三九五円とを相殺した旨の経理を行つた。そして、原告は右経理にもとづき自昭和三五年一〇月二六日至昭和三六年四月二五日事業年度分確定申告書および自昭和三六年四月二六日至同年一〇月二五日事業年度分確定申告書に右寄付金各二、〇〇〇万円宛を旧法人税法第九条第三項但書、同法施行規則第八条の寄付金として申告したものである。

(四)  しかしながら、右寄付金名目の支出四、〇〇〇万円(第一次更正処分にかかる部分二、〇〇〇万円、第二次更正処分にかかる部分二、〇〇〇万円)は、その名目にかかわらず実質は、原告の用地購入につき当初訴外町で負担することに決まつていた購入代価の一部四、〇〇〇万円(反当り二〇万円)を、結局のところ買主である原告において訴外町に代つて負担することにしたものであるから、右四、〇〇〇万円は寄付金ないし指定寄付金ではなく、右用地購入代価の追加払いである。土地の購入代価(取得価額)は、いわゆる資本的支出であり、総損金(旧法人税法第九条第一項)に該当しないから、この損金算入を否定した更正処分はいずれも適法というべきである。

(五)  なお、本件四、〇〇〇万円は、理論的には右金員と訴外町に対する貸付金債権四、五〇〇万円との相殺の際における元本、利息に対する充当関係を顧慮することなく、全額について損金算入を否認すべきものであるが、被告は利息債権については既に所得として課税計算ずみであつたので、改めてこれを覆えし、既往の課税計算をやり直すまでもないという技術的考慮にもとづき、利息に充当された部分は損金算入をそのまま是認したものである。

(被告の主張に対する原告の反論)

一、原告は次の経緯により訴外町に対し本件四、〇〇〇万円を支出したものであり、右金員は寄付金に該当するものである。

(一)  原告は、昭和三一年五月資本金二億円(訴外東洋紡績株式会社全額払込み)、当初一二万錘の紡績工場を建設する目的で設立された会社であるが、その設立に先立ち右計画を実施するに必要な工場用地としては、ほぼ二〇町歩が予定され、その買収用地の選定にあたつて広島県下特に訴外町にまずその目安が置かれたところ、当時訴外町においても原告に対し熱心な工場誘致の勧告が行われ、第一候補地として訴外町の万能倉地区が選ばれるに至つた。ところが用地買収の交渉が行われるや、地主において法外な値段のつり上げが行われ、原告の当初予定していた反当り二〇万円の価額をはるかに上廻り、なかには反当り一〇〇万円を唱える者が現われ、到底当初予定した価額では買収の見込みがたたず、原告としては他の候補地を物色せざるを得ない状況になつた。ここにおいて訴外町は周章し、工場誘致条例の制定ならびにこれにもとづく固定資産税五年分の免除を約するとともに、片や地主側を説得し、結局原告は当時の時価(高く評価しても反当り二〇万円を超えることはなく原告の買収価額三〇万円を大きく下廻るものである)をはるかに上廻る反当り三〇万円の価額で買収することを決定するとともに、訴外町も地主に対し反当り二〇万円を贈与することを約して、昭和三一年五月八日この用地買収が行われたのである。即ち、原告は用地買収の対価としては反当り三〇万円を超えて何らの支出をしておらず、その事業年度において反当り三〇万円をもつてこれを資産に計上しているのであつて、被告主張のように、原告と訴外町との間において、(1)買収価額は反当り五〇万円、(2)その内三〇万円を原告、その余二〇万円を訴外町の各負担とする旨の合意がなされたものではない。

(二)  ところで、原告は昭和三一年六月一五日訴外町との間に(1)訴外町は原告の工場用地の購入を斡旋する、(2)原告は訴外町に対し右目的のため財政上必要とする資金として、四、五〇〇万円を限度として貸し付ける旨合意し、これにもとづき訴外町に対し四、五〇〇万円を貸し付けたものであるが、訴外町が原告から右の借入金までして地主に対し前記合計四、〇〇〇万円を贈与したのは次の理由によるものである。

即ち、当時、農村が工場誘致による工業化、近代化を計ることは一般の風潮であり、訴外町においても一二万錘の紡績工場が建設されれば人口増加に伴う町の発展および町税収入の増収(仮に一二万錘が達成されると年間の固定資産税収入は五、〇〇〇万円を超え、その他町民税の増収等も予想された)等、直接間接に訴外町の受ける利益が多大であることが予測されたので、原告から前記四、五〇〇万円の借入れをなしても数年後には十分返済をなし、その後において町財政に稗益しうることが明らかであつたからである。

(三)  ところが、偶々繊維工業設備臨時措置法が昭和三一年六月五日から施行されたので、原告は当初の計画を大巾に減縮せざるを得なくなり、当初予定の約四分の一の規模で発足するに至つたが、当初訴外町は右借入金の利息の支払が四年間据置かれており、前記臨時措置法も五カ年の時限立法であつてやがては増設も認められ固定資産税の増収も見込まれるとして、原告、訴外町間に格別の交渉はなかつたところ、漸く借入元金の返済および利息金の支払の時期が到来し、昭和三六年度の町予算に計上する必要に迫られたが、訴外町の赤字財政によりこれを捻出することが極めて困難であつたので、交渉の結果、昭和三六年四月二〇日、原告と訴外町との間に、(1)原告は訴外町の財政上の負担を軽減するため訴外町に対し昭和三六年四月二五日二、〇〇〇万円、昭和三六年七月一三日二、〇〇〇万円をそれぞれ寄付する。(2)右寄付金四、〇〇〇万円は前記貸付金四、五〇〇万円の元利償還に充てるものとし、訴外町は原告に対し昭和三六年四月二五日に利息金一〇、七四三、五〇六円と元金九、二五六、四九四円を、昭和三六年七月一三日に利息金二五六、三九五円と元金一九、七四三、五〇六円を支払う旨の合意が成立し、右合意にもとづき右各日にこれが相殺決済がなされ、原告はそれぞれの事業年度において指定寄付金として各二、〇〇〇万円を損金処理したのである。

(四)  以上の次第であつて、原告は右用地取得に際して時価反当り五〇万円の土地を三〇万円で取得したものではなく、前記のように高く評価しても時価反当り二〇万円以下の土地を三〇万円で取得したものであるから、訴外町から四、〇〇〇万円相当の利益を受けたものではなく、また原告に当初一二万錘の建設計画があつたとしても、これは何ら原告を義務づけるものではないから、将来の税収入の増収は単に訴外町側の予測に止り、訴外町の地主に対する反当り二〇万円、合計四、〇〇〇万円の交付は訴外町の見込投資であつて、原告とは関係がない。

右のように、原告は訴外町から四、〇〇〇万円相当の利益をうけていないので、訴外町に対し右利益に相当する金額の返還をすることはありえないし、またその必要もなく、まして右利益の供与とその返還との間に対価関係はないものであるから被告の主張は失当である。原告は前記のように訴外町に対し単に財政上の負担を軽減するため本件四、〇〇〇万円を寄付したものであるから、右四、〇〇〇万円は旧法人税法第九条第三項但書、同法施行規則第八条の規定により指定寄付金として全額損金に算入されるべきである。

二、なお、被告は原告の支出した本件四、〇〇〇万円が土地の取得価額を構成する法律上の根拠を明らかにせず、単に理論上当然に右取得価額(いわゆる資本的支出)に該当する旨主張しているが、右は租税法律主義に反し違法である。

(証拠)

原告訴訟代理人は、甲第一ないし第四号証を提出し、証人福井三郎、同小林好男の各証言ならびに鑑定人土井豊の鑑定結果を援用し、乙号各証の成立はいずれも認めると述べ、

被告指定代理人は、乙第一号証、第二号証の一、二、第三、四号証、第五号証の一ないし四を提出し、証人大久保勉、同土井豊の各証言ならびに鑑定人土井豊の鑑定の結果を挺用し、甲号各証の成立はいずれも認めると述べた。

理由

一、請求原因一項ないし四項の事実は当事者間に争いがない。そこで、原告が昭和三六年四月二五日および同年七月一三日の二回にわたり、訴外町に対してなした各二、〇〇〇万円、合計四、〇〇〇万円の支出か、その名目どおり寄付金(指定寄付金)であるのか、あるいはそうではなく、原告がさきに取得した工場用地の購入代金の追加払いとみられるべきものであるのかについて争いがあるので検討する。

二、原告が訴外町に対し、右四、〇〇〇万円の支出をした経緯としては、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、乙第一号証、第二号証の一、二、第三、四号証、証人福井三郎、同小林好男、同大久保勉、同土井豊の各証言、鑑定人土井豊の鑑定結果、および弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告が工場用地を取得した状況

(1)  原告は、昭和三一年五月一二万錘の紡績工場を建設する目的で設立された会社であるが、その設立にさき立ち、これに必要な工場用地として約二〇町歩の土地買収を予定したところ、当時訴外町から原告に対し熱心に工場誘致の勧告が行われたこともあり、結局買収用地の第一候補地としては、訴外町の万能倉地区が選ばれるにいたつた。原告は当時右地区付近の土地(農地)の時価を反当り一〇万円ないし一五万円位と判断し、同地買収価額としては、反当り二〇万円以内で行うことを予定していた。ところが、買収交渉が行われるや、地主の間において地価のつり上げが行われ、原告の予定していた反当り二〇万円以内の価額をはるかに上廻る価額が主張され、中には反当り一〇〇万円を超える価額を唱える者もあらわれた。このため、原告としては同地区については買収の見込みがたたないとして、買収計画を他の候補地へ変更することを考慮せざるをえない状況になつたが、ここにおいて、訴外町は、原告の工場を誘致すれば、後記のように町税収入面等において多大な利益があるとの情勢判断にたつていたので事態を憂慮し、原告の用地買収の斡旋に力を入れ、極力地主への説得にあたつた結果、ようやく地主の側でも訴外町の責任で反当り五〇万円の金員を入手できればということで、土地を売り渡すことを承諾し、訴外町と地主代表者二名の間で契約書を取り交わし、一方原告としても当初の予定を変えて譲渡し、反当り三〇万円であれば買収を行うことを決定するとともに、訴外町も各地主に対して売買が成立したとき補償費名義で反当り二〇万円の金員を同町の負担において支出し、交付することを決めた。これにより原告の用地買収が可能となつたので、原告は昭和三一年五月八日各地主との間に反当り三〇万円の価額で土地(農地)二〇町歩の売買契約を締結し(ただし、三〇万円の名目はうち一〇万円を土地代、一五万円を離作料、五万円を感謝料とした)、その頃代金の支払をするとともに、訴外町も反当り二〇万円、合計四、〇〇〇万円を各地主に交付した。

(2)  訴外町が右のように原告の工場誘致を熱心に行つたのは、原告の工場を同町に誘致することが実現し、一二万錘の紡績工場が建設されれば、年間の固定資産税収入のみでも約五、〇〇〇万円にのぼるほか、住民税、電気ガス税収入その他直接、間接に同町のうける利益が多大であることが予想されたからである。そこで、訴外町としては原告の工場を誘致するについては、地主を説得するため反当り二〇万円宛合計四、〇〇〇万円を同町の負担で支出してでも、この際これが誘致をすることができれば、右四、〇〇〇万円の支出は原告に工場誘致条例にもとづく優遇措置を与えても、原告からの税収入により短期間内に取り戻せるばかりでなく、前記のように原告から多額の税収入が継続的に見込まれたことなどの理由から、町財政の将来に多大の利益をもたらすものと考え、これが支出に踏み切つたものである。すなわち、右四、〇〇〇万円は訴外町が自己の将来の利益のため支出した投資的性質のものである。

(3)  ところで、訴外町が右のように原告の工場用地買収に関しての斡旋をするについて、原告は昭和三一年六月一五日訴外町との間に、広島県副知事立会のもとに、<1>訴外町は原告の工場用地の購入を斡旋する、<2>原告は訴外町に対し右目的のため財政上必要とする資金として四、五〇〇万円を限度として貸し付ける、<3>右貸付金の利息は年利八分とする、<4>右貸付金の元利金の返済は昭和三五年度以降原告が訴外町に対して納入する各種税金額から地方交付税減額分を差引いた額の範囲内において逐次返済する、旨の協約書を取り交わし、これにもとづき、原告は訴外町に対し四、五〇〇万円を貸し付け、訴外町はこのうち四、〇〇〇万円を前出の地主への交付金にあてた。もつとも、訴外町は前記地主への交付金の捻出については、当初町債の発行をも検討したが、監督官庁の認可を必要とするなど手続に手間取ることなどから、原告に借入金の要望をし、結局原告が右のとおり貸付けを行うにいたつたものである。

(4)  なお、昭和三一年五月当時の、原告が買収した土地の宅地見込地としての時価(正常価額)平均額は、反当り三〇万円位であつたと認められる。

(二)  原告が訴外町に対し四、〇〇〇万円を支出した事情

(1)  右のようにして訴外町へ原告工場を誘致することが実現したのであるが、原告の会社設立直後繊維工業設備臨時措置法が施行されたことなどから、原告は当初の計画を大巾に減縮せざるを得なくなり、当初予定の約四分の一の規模の設備で操業をはじめた。しかし、前記貸付金の利息の支払が四年間据置きとされていたこともあつて、原告、訴外町間に格別の交渉はなかつたのであるが、右のように原告の工場建設、操業が当初予定の約四分の一にとどまり、したがつて原告からの町税収入も当初の見込みをはるかに下廻る状況であつたため、訴外町においては、前記借入金の返済計画がたたないのみならず、これが利息の累積が町財政を圧迫する事態にいたつたため、昭和三四年暮頃から広島県知事および原告に対し財政援助を懇願するにいたつた。

(2)  そこで、原告、訴外町、広島県の間において種々交渉が行われた結果、昭和三六年四月二〇日原告と訴外町との間に広島県知事の立会のもとに、<1>原告は訴外町の財政上の負担を軽減するため訴外町に対し、昭和三六年四月二五日二、〇〇〇万円、同年七月一三日二、〇〇〇万円をそれぞれ寄付する、<2>右寄付金四、〇〇〇万円は原告から訴外町への前記貸付金四、五〇〇万円の元利償還にあてるものとし、訴外町は原告に対し昭和三六年四月二五日に利息金一〇、七四三、五〇六円と元金九、二五六、四九四円を、同年七月一三日に利息金二五六、三九五円と元金一九、七四三、五〇六円を支払う、旨の合意が成立し、右合意にもとづき右各日にそれぞれ相殺決済が行われた。

三、以上認定の事実によれば、原告は用地買収にあたり、時価(正常価額)反当り三〇万円の土地を同額の代金で買い受けたものであると解される。そして、訴外町が地主に交付した反当り二〇万円、合計四、〇〇〇万円の金員は、訴外町が原告を同町に誘致することによつてもたらされる財政上等の多大の利益を見込み、是非とも原告工場を同町に誘致することを実現すべく、時価(正常価額)をはるかに上廻る売渡価額を主張する地主を説得し、原告の用地買収を可能にするため交付することを余義なくされたものであつて、右支出はいわば同町が原告を誘致することによる将来の多大の利益を見込み、同町の利益のため、その意思にもとづき支出した政策上の投資ともいうべき性質を有するものと判断すべきものである。他方、原告は訴外町万能倉地区の用地を買収することに格別の理由と必要性をもつていたわけではなく、むしろ地主により地価のつり上げが行われるため、他の候補地へ工場設置計画を変更することも考慮していたのであるから、本件用地買収により取得した土地の価値は、原告にとつて時価(正常価額)である反当り三〇万円を超えてあるものとは認められない。

右のとおりであつて、原告は訴外町が支出した四、〇〇〇万円により、同額相当の利益を訴外町からうけたものとは解せられず、もちろん被告主張のように本件買収土地の時価が反当り五〇万円であるとして同額で売買が行われ、その内金二〇万円を訴外町において負担して支出したものとは認められない。

したがつて、原告が訴外町に対してなした本件四、〇〇〇万円の支出は、原告としては右のように訴外町から利益をうけていたこともなく、本来これを行うべき義務はなかつたのであるが、原告の工場建設計画の縮少という当初予定した事情の変更にもとづき惹起された訴外町の財政難の事態に直面し、訴外町の懇請を容れて同町の財政援助のため支出されたものであつて、これをもつて買収用地代金の追加払いをしたものと認めることはできない。すなわち、原告の訴外町に対する右四、〇〇〇万円の支出は、同町に対し、直接の対価的利益をうけることなくされたものであり、税法上寄付金として取り扱われるべき性質を有するものと解するのが相当である。そして右は地方公共団体への寄付であるから指定寄付金として旧法人税法第九条第三項但書、同法施行規則第八条の規定にもとづき全額損金算入か是認さるべきものである。しかるに、これが預金算入を一部否認した被告の各更正処分はその範囲において違法であり取消しをまぬがれない。

四、よつて、原告の本訴請求は、いずれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 塩崎勤 裁判官 木村要)

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

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